Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンタがわたしでわたしがアンタで
プロローグ 生まれながらにして勝ち組

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「び…美少女になった!?」

 日曜日の朝、わたしはベッドから飛び起きるなり、鏡を覗き込みながらそう言った。な…何を言っているのかがわからねーと思うが、わたしにもさっぱりわからない。
 わたしの名前は下山(さがやま)あすか、今年幼稚園に入園したばかりの3歳児だ。――いや、こんな独白をする3歳児がいてたまるか。
 だけどわたしは3歳児なのだ。昨日は砂場で同じ幼稚園のゆうくんと一緒にトンネル掘りをしたし、今日はお父さんと一緒に早起きしてギンガマン・ロボタック・クレヨン王国を見る約束をした。若干男勝りだけどもどこにでもいる3歳の女の子だ。

 しかしこの違和感は拭えない。改めてもう一度鏡を見る。

「この顔…めちゃくちゃ可愛いなあ」

 自分の容姿を再度確認した。
 肩より少し下の位置でそろえたサラサラな髪――普段はポニーテールにしている。
 くりくりした大きな目――“お父さん”にそっくりな目だ。
 形の整った小さな鼻――“ママ”と瓜二つだ。

 まるでお人形さんのように可愛らしい女の子が鏡に写っている。だがそれは昨日までの自分と何ら変わらないいつも通りの容姿だ。
 にも関わらず、今は自分の容姿に見惚れずにはいられない。自分を見て可愛いと感じるなんて傍から見たらナルシストも甚だしいと思うだろうが、今のわたしは自分の姿を客観視しかできなかった。
 そんな中、混濁した頭の靄が晴れ、“俺”は1つの答えを導き出した。

「…“俺“はこんな美少女に生まれ変わったのか!?」

 そう、俺は男だ――否、“男だった”のだ。
 目覚める前に突如やってきた知識の奔流、それは“俺”の前世の記憶によるものだと理解した。
 今の自分なら昨日まで読めもしなかった漢字は書けるし、複雑な掛け算や割り算などもある程度なら暗算で出来る自信もある。

 しかし

「俺はいったいどこの誰だったんだ…?」

 肝心な部分が思い出せない。俺はどこの誰で、どのような男だったのか、そしてどのように死んだのか。
 わかるのはただ漠然と『男であった』という認識と、ぼんやりとした経験のみ。ある程度数学知識があるため、小学生以下ではないだろう。
 模索しているうちにも知識の奔流は止まらない。そしてその流れはいたいけな身体を持つ俺に、ある1つの感情を植え付ける。

「ふひひ…この身体が大きくなったら…エロいことやりたい放題じゃないか!」

 ここで言う『エロいこと』とは、女子にボディタッチしてもセクハラにならないとか女子更衣室を覗くとかそんなちゃちなもんじゃねえ。
 とてもじゃないが3歳の女の子には想像もつかないようなハードなことだ。この身体でそんなことを妄想するだけでも興奮が止まらない。
 こういった発想に行きつくあたり、自分は中学生~高校生ぐらいの人間だったのだろうと冷静に分析してみる。

「あら、もう起きてたの?あすかちゃん」
 自分が起きたせいか、ママが目を覚ました。どうやら俺の独り言は聞いていないらしい。
「ま…ママ!おはよう!急におトイレに行きたくなったんだ」
「そっか、じゃあママと一緒に行こうか~」
「ううん、1人で行けるよ!」

 ママを残し、トイレに駆け込む。…不思議な感覚だ。男としての本性に目覚めたものの“下山あすか”として生きた記憶も残っている。
 目の前にいる女性は紛れもなく俺の“ママ”であり、かけがえのない人だ――付け加えるとかなりの美人である。どうだ羨ましいだろう?
 同様にママの横でぐーすか眠っている男性も大切な“お父さん”。建築家として事務所を構え、仕事も軌道に乗っているため下山家は俗に言う“お金持ち”の類だ。しかし完全な仕事人間と言うわけでもなく、お父さんは毎週欠かせず俺と一緒に特撮やアニメを見てくれる。

 以前の“俺”は思い出せないけど、今の俺はお金持ちであり温かい両親を持つ下山あすか。

「俺はなんて勝ち組なんだ!」

 そして何より――この美しい容姿。

「ハァハァ…この身体…早く成長しないかなぁ…」

 こうして、俺の人生は新たに幕を開けたのだ。

       

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