Neetel Inside ニートノベル
表紙

わが地獄(仮)
最後の人狼

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 人狼の俺が人狼のみんなを滅ぼしたことについて、ようやく考えをまとめる余裕が出てきた。あれから四年近く経ったが、人狼なき世界でいろいろと後始末をしていて、ゆっくりする暇がなかったから。
 同族殺しなんて、何か悲壮な理由があったんだろうとか、とんでもない憎悪に駆られていたんだろうとか、いろいろ人類に言われたけれども、やった当人としては「生きていても仕方なかったから殺してやった」くらいの感想しかない。俺が殺した仲間もみんな「どうして!」と叫んでいたけれども、どうしてもクソもない。
 この地球は人類のものだ。俺たち人狼は負けていた。無理して戦うより、死んでラクになった方がいい。そう思った。別に自分だけ特別扱いしたつもりもない。誰も仲間がいないこの世界は、俺にとっては充分に地獄だ。
 それでも、俺はこの地球で人狼が生きていくことはできないと思った。吸血鬼のように人の血を吸わなきゃいけないという制約があったわけじゃないが、月夜の晩に正気を失って獣化する。誰かが言っていた。障害者を採用するなら、企業は身体障害者を選ぶ。精神障害者はコントロールできないから、と。確かにそうだ。吸血鬼は衝動に駆られこそすれ、正気は失わない。俺たちは簡単に正気を失って人を襲う。
 俺たちはこの社会に適合できていない。だから、存在しないほうが都合がいい。
 羽が折れて、もがいている虫ケラがいたら、チリトリですくってやって外へ逃がす。それが人の道かもしれない。だが俺は間違いなく踏み潰す。確実に殺してやる。そんなふうになってまで、生きていても仕方がないから。
「そんなふうに他の命が生きていたいかそうでないかをおまえが決めるなんて間違っている!」みたいな理屈。わからなくはない。だが、俺は自分が逆の立場でも殺して欲しいと思う。それを実行しただけだし、どうせ物事は百点満点にはいかない。多少の失点は覚悟の上だ。
 この世界のどこに、月夜の晩になったら友人だろうと伴侶だろうと食い殺してしまう種族の居場所があるっていうんだ?
 俺だって、生まれ変わるなら人狼になんて絶対に産まれない。もっと簡単な人生をサクサク送れるやつになる。みんなから愛されていて、自然と周囲に輪ができるようなやつ。俺はそれがいい。この世界をカスタムできるなら、俺は自分をそうデザインする。そうすれば難しいことを何も考えなくていいし、そうすることを迷わなかったという理由だけで200万人の同族を大虐殺しなくても済む。そんなことは対岸の火事、ネットニュースの見出しとして戦慄していればいい。当事者になんか、なってもいいことない。
 同じ人狼だから、人狼がこの世界にいてはいけない理由を誰よりもわかっている。
 俺たちは狩猟民族だ。農耕社会に居場所はない。
 個々が個々のまま生きていた。馴れ合いはしても群れたりはしなかった。だから人類に簡単に各個撃破された。数は力だ。
 俺たちは弱かった。美しかったかもしれないが。


 俺には招待状が届いている。南の島への招待状だ。
 おそらく、そこで俺は人類に殺されるだろう。
 あるいは、そこで隔離されて一生を平和に過ごすか。
 どっちでもいい。
 あの満月の夜、青ざめた月を見上げただけで、世界が爆散し自分が何をすべきかはっきりと自覚するあの感覚。力と狂気に身を委ねて疾走することが生命のすべてだった瞬間。
 それを分かち合える仲間は、俺にはもういない。一人残らず殺してしまった。
 人間なんかと何を話せばいい。
 話題がないよ。

       

表紙

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