Neetel Inside ニートノベル
表紙

わが地獄(仮)
ブレイブファイター

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 野営することにした。
 焚火をしていると草陰から視線。魔物だ。俺は剣を抜き放って、やめた。鞘に戻し、革のケースから使い捨てのショートソードを二、三本草むらへ放る。ぎぎっ。悲鳴があがって魔物の気配が消えた。
 俺はいくつかの魔法札を森の中に五角形に貼って回った。220Gの安物。それでもないよりはいい。
 ため息をつく。
 魔物のしつこさは折り紙つき。さっきのやつもすぐに仲間を呼ぶだろう。その途中で力尽きてくれていることを祈る。
 俺は抜きかけてやめた剣を今度こそ抜いた。
 銀色の刃。
 それを焚火にかざす。
 もういつからこんな風に暮らしているのか覚えていない。
 不死の呪文を発掘し使って調子に乗っていたのがいつの頃からだったか。
 俺と同じように死から解放された仲間たちはどこへいったのだろう。友情は最初だけ。不死は自分を限りなく身勝手にした。不和、喧嘩、嘲笑。俺たちはバラバラになった。風のうわさでは、ヒーラーだった神官の少女は自ら進んで娼婦になったという。それぐらいしか楽しみがないなら不死になんてならなければよかったのに。
 魔王を倒そうとしていた頃は死ぬのが怖かった。何もかも魔王のせいにして旅を続けるのはラクだった。辛いなんて嘘だ。この世の悪の何もかもを誰かのせいにしていられるなら奴隷だって幸福だ。
 俺たちにはもうそれがない。
 世界は相変わらず魔物の脅威にさらされているが、俺たちにはもうそんなものは関係ない。剣技魔術戦略どれをとっても俺たちを超えるやつなんていないし、そもそも最近は金持ちならマスタークラスのブレイブファイター(勇者)を飼っているのが普通だから、金さえあれば平和を享受するのはぜんぜん大したことない。もちろん貧困にまみれた小さな農村なんかじゃいまだに魔物による被害はあるが、それだって野良犬に咬まれる程度の頻度。
 できることはやった、と思う。世界は平和にできた。少なくとも100人いれば99人は幸せだろうと思うし、残りの1人だって魔王がいた頃には1000人に1人いたかどうかの果報者なのだ。そんなやつらに文句を言われる筋合いはないし、どうしても今の境遇が嫌だというならブレイブファイターになればいい。
 焚火を眺めているうちに、眠くなってきた。しかし眠ったところでなんだというんだろう。明日起きて、どこへいけばいいんだろう。世界全土を回ったなんて口が裂けても言えないが、それでもどこへいっても似たような風景しかないことはよーくわかった。結局この世界は発展をやめたのだ。いや、最初から発展などしていなかったのだ。魔王がいるか、いないか、それだけ。二通りの世界どちらも見てきたこの俺にもうやるべきことも見るべきこともない。
 みんなどこいっちまったんだろう。
 ああ、あの頃に戻りたい。魔王なんて倒さなければよかった。たとえそれで何人死のうが俺たちには魔法の言葉があったじゃないか。『しょうがない』と『許せない』だ。まったくもってお笑い種だ、望みを叶えても幸せになれないような人間がいったい何をしょうがなくさせることができるのか、いったい何を裁けたというのか。その先を考えずに剣と魔法を振り回していた愚か者の陣頭指揮を執っていたのがこの俺さ。
 膝を抱えて後悔するが、誰もどうにかしてくれない。恐ろしいほど美しくない月を見上げながら願う。魔王の再臨を。斃すべき敵の存在があることを。



 終

       

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