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サバイバルレース途中経過第二章~戦火の王女~

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前章 http://neetsha.jp/inside/main.php?id=10865&story=7 (別に読まなくても大丈夫)

 ある日Dは会社を去っていた人達の名前を手帳に書き記していた。もう二度と会えないかもしれない彼らを、ただ忘れてしまうのは忍びないという理由で。下の名前を忘れていた人がいた。顔をうまく思い出せない人がいた。親しかった人、口を利いた覚えのない人、そのどれもがおそらく、もう二度とは会うことのない人々だった。彼の知りうる範囲内だけで、レース棄権者は既に二十九名に達している。
 以下ここに写す。名前はイニシャル+数字とした。

A1 家族が相次いで入院し、その世話で忙しいため退職。
H1 手首を痛め退職。
H2 消息不明。退職理由も不明。
H3 かつてはある部署の責任者。仕事中大声で喋りすぎるなどしたため、肉体的に厳しい部署をたらい回しにされたあげく体を痛め退職。
H4 結婚、引っ越しのため退職。
H5 元来が腰掛け。正式な就職先を見つけ退職。
H6 遅刻の多さを指摘され、部署の責任者との諍いが絶えず退職。
H7 がっしりした体格とリフトを使いこなす技術などを期待されたが、仕事に来たのは二日間のみ。
H8 彼のような細身で華奢な人間がやっていける職場ではなかった。現在はチャラ男に変貌との噂。
I1 若くて巨漢だったため最初は重宝されたが、気の弱さと頭の悪さから、厳しく当たられることが多かった。責任者と揉めて配置転換後、N1の後釜に座るも、二ヶ月後退職。
I2 引っ越しのため退職。
I3 職務怠慢のため一度はクビになったが何故か舞い戻り、再び辞めた。
I4 素直な性格と愛らしいルックスで人気者だったが、東京へ就職。
K1 前章にも登場のアル中。退院後復職するも、仕事後の酒の味を忘れられず。いつしか来なくなった。
K2 本人は「定年」と言い張るも、職務上怠慢などを理由に会社から目をつけられていた。
K3 妊娠。体調不良のため退職。
K4 長時間の残業をこなし、職務能力も高い人だったが、待遇面での不満をよく口にしてもいた。フルタイムから六時間勤務に変更後、二ヶ月で退職。
M1 配置転換された日、「トイレに行ってくる」と言い置き、そのまま退職。
M2 男前だったため職場のおばさんによる露骨なえこひいきにあっていたが、傍目から見ると迷惑そうだった。次の就職口を見つけ退職。
N1 前章にも登場。生来心臓に病を抱えている上に、胃潰瘍と交通事故とを重ね、退職。噂では別の会社で無事働いているとか。
N2 職場中から嫌われており、きつい部署に回された後、泣きながら会社を去る。
N3 K3と付き合っているという噂があった。夜勤からそのまま日勤の夕方まで残って仕事をするなどして会社から目をつけられていた。退職理由は不明。
N4 同じ話を繰り返すなど、若年性痴呆症を心配されていた。精密機械に水を浴びせたのを理由に馘首。
O1 元々ろくに来ていなかったのでいついなくなったか覚えがない。
O2 休日のシフトなどを相談した後、一日で消えた。
S1 小柄ながらよく働く女性だったが、無理がたたりいろいろ痛め、退職。
S2 職務上のミスが重なり、半ばクビの形で退職。
T1 腰を痛め退職。
T2 若手の正社員。次の就職先を見つけ退職。


 レース途中棄権者の特徴を大ざっぱにまとめると、
・フルタイムで働く、比較的若手ほど多く辞めている。
・短時間パートの主婦層はほとんど辞めていない。
・年配の方ほど会社にしがみつく執念が強い。
 などがあげられる。

 今年四月から新卒の新入社員が二人入った。日々死んでいく彼らの目を眺めるのがDの楽しみでもある。他の社員の話を聞くと、
「毎日終電までダッシュ」
「家がバイクで十分の所にあるので、0時半まで残らされました」
「会社は俺を殺しに来てる。辞めろと言ってくれたら辞められるのに」
 Dはそういった話を、自身はバイトの身だから気軽に聞くことが出来た。しかしそんな気楽な日々も、もうすぐ終わる。
一次面接、筆記試験、役員面接をパスした彼は来月から正社員の一員として、より厳しいサバイバルレースに挑むことになるからだ。
 正式な決定後、Dは同部署の直属の上司となる社員にそのことを告げた。
「おめでとう。地獄へようこそ」と彼は言った。
「これで次の仕事を探せる」と嬉しそうに彼は続けた。

(了)
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