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「気まぐれと空腹と」作:ソルト 0319 00:30

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「な、な。お前行ってみろって。なんかありそうじゃん?」
「いやなんでボク!?アンタが行けよボクの運動神経の低さ舐めんな!」
「猫だけに舐めるのは得意です!って感じかにゃ?」
「うーんまずコイツから落とそうぜ?」

 白黒のぶち猫が、眼つきの悪い灰猫の背を鼻先で押す。それを見てにへらと笑った右耳と尻尾のみ黒い猫のしょうもないジョークに、黄土色の猫がジト目を向けた。
 麗らかな陽射しの下、本来ならばゆったり昼寝でもしていたかった彼ら野良猫同盟は、しかし朝からロクな残飯を見つけることも叶わずに空腹で眠気も飛ぶ始末だった。
 兎にも角にも何か腹に入れぬことには話は進まない…はずなのだが。
 そんな中で、たまたまいつもの縄張りから離れた場所にあった廃墟で見つけた謎の地下への入り口。
 誰が言うでもなく、既に議題は『何があるか』ではなく『誰が行くか』という探索決定を前提とした上での話し合いとなっていた。
 
「だいじょぶだって!ほら、お前やれば出来る子だったじゃん!オレずっと前からそう思ってたし今でもそう思ってっから!」
「その言葉って普段やらない子に言うヤツだよね!?そうなるとアンタずっと前から今の今までボクのことそういう風に見てたわけだな!落ちろ!落ちてしまえこの駄猫!!」
「まあまあ、我々って確か背中から落ちても絶対両足で着地できるような体の作りしてたから、たぶんどうにかなるんじゃないかにゃ?」
「行きはよいよい、んで帰りはどうするつもりよ。猫の手でハシゴはキツイぜ」

 やいのやいの(人間視点ではにゃーにゃー)と騒ぐ四匹。好奇心に勝る空腹故か、誰しもが自ら行動を起こそうとはしない。

「ここに落っこちてるカギとかさ!絶対この地下で使うんだって!んでな、その先には山ほどの猫缶があってなっ!」
「鍵があってもその高さまで跳べない運動音痴のボクは論外だね!そして鍵穴に差し込む術を持たない猫風情に扉を開けることは不可能ということで完全論破!もうアンタ路地裏に帰れ!」
「さらに言うと猫缶があってもやっぱり我々には開けることが出来ないということだにゃー」
「もう一つ付け加えると、お前の語尾くっそあざとくてムカつくから引っ掻いていい?」

 やいのやいのがやがて実力行使を伴う諍いへと変わり、次第に猫達は余力を振り絞った生き残り戦を展開し始める。

「治るから!運動音痴は治せるからさっさと行って来いっていうか行けオラァ!」
「はい本性見ましたー!所詮アンタはそういうヤツだよわかってたもんね!」
「野良はあざとさが全てなんだ!身を売ってでも擦り寄らなければその日のご飯すら危ういってのに恥じらいに躊躇ってられっかって話だろがにゃあ!!」
「猫語で語尾に気を遣ったところで無意味だろが頭ん中お花畑の春真っ盛りか馬鹿め!」

 尻尾を振り上げ毛を逆立て、四匹は地下へ続く四角形をぐるぐる回りながら爪を突き出し八重歯を剥き出し、人の目から見れば可愛らしいじゃれ合いを続ける。
 数分の間四匹の鳴き声が廃墟に木霊し、真っ先に制止の(鳴き)声を上げたのは運動音痴の灰猫だった。

「たっ…タンマ。無理、これマジ無理。これ以上無駄にカロリー使わせないでお願い。これじゃボクら全滅だから。いやほんとに」

 ただでさえ空腹で緩慢となっていた動きが、さらにスローになる。互い不平不満を力の叫び散らしたのもよくなかった。
 黄土色の猫も同意して頷く。

「そうだな…。腹が減り過ぎて気が立ってた。スマン、俺ら野良にとっては生き残る為にはどんな手でも打つだけ打っとくべきだったわ、俺も今度から語尾に気を付けるにゃ」
「お、おう…。でも語尾に関してはちょっと気の迷いがあったから別にそれほど深刻に受け止めなくてもいいっていうか……、にゃ、にゃあ?」
「…オレらも仲直りしようぜ?運動音痴とか言って悪かったよ、ごめんな」
「うん、ボクは絶対にアンタを許さないから謝罪とかいらないけどね☆」
「上等だコラ…!!」

 ぶち猫と灰猫の追い掛けっこが再開され、やれやれと二匹を諌める為に残りの二匹も彼らを追って空腹に鞭打って四足を駆る。
 既に彼らの意中に地下への興味はすっかり失せ、残された地下へのハシゴと錆だらけの鍵だけが、麗らかな日光を燦々と受けて退屈そうに鈍色の反射を繰り返していた。
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