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今週のギーツ

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 ギーツを見ている。

 面白いんだけれども、順当に話を運んでいるな、という印象は相変わらず。
 スエルとニラムの退場も、特にスエルに関してはブースト9の噛ませ犬だったな、という感じで、俺は個人的には特別な変身というものはそれにふさわしい好敵手を相手にしてこそ、と思うので、「持ってきましたよ、撮影用の機材!」みたいなノリで置かれたサンドバッグがボコボコにされてもあまりピンと来ない。
 ブースト9のお披露目としてはバッファの横やりのせいでお預けになっていたニラムゲイザーとの決着のほうがよかったような気はするが、ニラムはリアルとフィクションの違いに熱い男としていいやつふうに退場してしまった。
 俺としてはギーツ世界のリアルに感化されながらも冷徹にグランドエンドを実行し「おまえも本当はこの世界の続きが見たいんじゃないのか?」とエースに煽られて眉ピクしながら最後の戦いに臨むニラム、とかも見てみたかったが、まぁこれは俺の考え。

「すべてを忘れて楽になれ」

 などよいセリフを吐いてくれるキャラだったので、退場は残念だ。
 俺もすべてを忘れて楽になりたい。



 ギーツに関してはもうすでに絶望している部分があって、それはけーわ関連だったりする。
 もう30話時点で「半分過ぎたのにけーわにスポットが当たっていない! もうおしまいだ!」と絶望しているやつがいたが、それどころが38話ではグランドエンドを喰らってベルトとバックルと記憶を失い尻餅をつくという醜態を晒した。脚本はけーわが嫌いなのかとちょっと思った。
 確かに、現実問題として主人公のギーツと主張を異にするキャラというのは脚本としても推しにくいだろうし、そういった役目を最初から割り振られているバッファに場所を取られているのも痛い。ナーゴまわりの処置、スポンサーたちの暗躍などももりもり盛り込んでいたらけーわの話が全然進まなかった、というのは一つのやむを得ない事象として理解はする。
 理解はするが、俺は好きじゃない。
 ケケラじゃないが、けーわはもっと活かせたような気がする。というより、俺はハッキリ言って、この脚本からは「けーわを活かすことはもうできないし、仮にやるなら別の作品になる。ギーツでのけーわは諦める」という声が聞こえなくもない。
 たとえ出番が少なくても演出次第で魅力的になるキャラはいくらでもいる。エグゼイドであればキリヤさんとか。この脚本家は決してそういう切り回しができないやつじゃない。が、けーわはどうしても話の隅に追いやられ続けて38話まで来てしまった。ライダーになった姉ちゃんも生存してグランドエンドを迎えた(さすがに姉ちゃんが死ぬのは重すぎるし話の処理に時間がかかりすぎるから難しいにしても)。

 みんな忘れているかもしれないが、序盤で「姉ちゃん一人助けるのにこれかあ」と言って退場していったけーわを見たときに感じたこのギーツという作品、けーわというキャラへの期待値を回収できたかと言われれば、俺はできていないし、もっとも口汚く言わせてもらえば期待外れだった。
 じゃあどうすればいいか、というのも難しい。
 けーわの理想を叶えるというのはデウスエクスマキナ、機械仕掛けのハッピーエンドを起こすに等しい。それは築いてきた物語のすべての意味を無にする。もっと言えば夢オチでしかない。物語の構造上、バッファのように願いを叶えさせてやることはけーわにはできない。
 かといってけーわが理想を諦める、というのはけーわのキャラクター性と乖離する。おそらくこのダブルバインドを処理できなかったんじゃないかと俺は思う。
 この、「けーわをどうするべきだったのか」というのは、面白い問題だなと思う。
 バッファはかなり丁寧に話運びされ、ナーゴも「デザインされた人間の苦悩」というテーマを背負って役割がある。宙ぶらりんなけーわをどうすればよかったのか。
 この物語は、ギーツが母親を探すフェーズが大部分だった。デザグラの真実が明らかになっていく上でギーツ自身の物語も自動的に進行する。
 ただ、けーわの場合は最初から最後まで「他人の幸福」が至上命題であって、それが明かされていく真実とほぼリンクしていなかった。願いが他人の不幸をエネルギーにして実現されていく、という部分くらいでしかけーわにとって衝撃的な事実というものは(ジャマトが脱落者かもしれない、などの迷いは多少あったが)、なかった。しかも願いのリソースの真実を知ってもけーわの目的は変わらなかった。
 つまり、けーわは38話かけて何も変化していない。
 そしてその変わらなさがけーわというキャラクターの骨子でもある。

 どうすればいいか、素人考えだけれども、一度折れてもよかったのかもしれない。

「世界平和なんかどうでもいい、姉ちゃんさえ守れればそれでいい、脱落者なんか知らんしちょっと知り合っただけの息子思いのおっさんなんか圧迫面接されて本当は嫌だった死んでよかった」

 というくらい落ちてもよかったのかもしれない。それくらい落ちないと『変化』を起こせない。
 わりと俺の感触では、折れるキャラというのは親近感を覚える。この現実世界で本当の意味で折れないやつなんてフィクションだから。
 そうして折れて、ほかの参加者が戦ってる時に姉ちゃんとのんびりアイス食ったりして

「ああ、こんなに俺は幸せなのに、何をあんなに望んでいたんだろ?」

 と思ったりもする。
 そこから、姉ちゃんに「本当はどうしたいの?」と聞いてもらったりして、自分の信念を取り戻す。その過程で姉ちゃんは死んだり、なんらかのアクシデントでけーわが弟だったと認識できない状態になったりする(ケケラの言うとおり、けーわに変化を起こすためには姉ちゃんには生死を問わず犠牲になってもらうのが効果的)。
 けーわは優しいだけの一般人であり、折れるのは『普通』のこと。折れないエースやバッファとの対比としても、けーわは折ってもよかったのかもしれない。ケイロウ編で記憶をなくした状態で人を助けようとしてタイクーンとして復活したが、あのエピソードをもっと膨らませてもっと後半に持ってくれば……と思わなくもない。
 まあ、ただ、その尺はなかった。メイン5人のライダー、そしてそのサポーター、運営。掘り下げなきゃいけないもの、描写しなければならないものはたくさんあって、けーわのエピソードをやるにはあまりに尺も余裕もなさすぎた。
 それを脚本は理解しているから、最近けーわの扱いが雑なのかな、諦めちゃったのかな、と思ったりもする。

 これから新章でけーわとケケラ絡みのエピソードは挿入されるだろうけれども、それも脚本にとって満足のいく尺でやれるかはわからない。
 だからやっぱり、俺はちょっと不満を抱えながら見続けるかな、と思う。いや、楽しいんだけどね。毎週2~3回は録画見てるし。

 ただなんとなく、ギロリやニラム、復活したパンクジャックなんかもそうだけど、「エグゼイドでキリヤさんとか神が復活したら大人気が出ました! みんな復活が大好きです、復活しやすいように人気が出そうなキャラの死亡はボカしましょう!」みたいな作りが透けたのがちょっと嫌だったなあ、と思う。これは脚本ではなく制作管理者側の意向だと思うけど(脚本びいき)。
 戦略としては間違いなく正しいんだけど(明らかに始末してしまうと本当に復活させようとしたらとんでもない無理を通さなきゃいけなくなる)、かといって毎回それをやってたら火曜サスペンスで「この女将は有名女優だからこの人が犯人だわね」みたいなメタ推理と同じようにコイツ復活するかもなんだろうなあ、ああやっぱりスピンオフをVシネで作るのね、みたいになってくる。そこに驚きや感動がなくなる。
 これこそ『リアルを汚すフィクション』では? と俺は思う。仕方ないんだけど。
 パンクジャックの復活なんてスエルが権限使って蘇生させました、みたいなすごい雑だったしパンクジャックが好きだった俺からしても「おまえなにしれっとしてんの?」って感じだった。
 個人的にはパンクジャックは、ギロリ戦のときにもっときちんとした形で尺をあげて退場させてあげたほうがよかったんじゃねぇかなぁ、と思う。仮に復活するにしても。
 洗脳されて頭爆破されて死体の詳細は不明、でボカされただけでもモヤモヤするのに復活してもモヤモヤするし、まぁ俺の機嫌が悪いだけという気持ちもなくはないが、やっぱりなんだかなあ、と思ったりはする。
 仮に復活させる余地を残すにしても、退場シーンは丁寧に作ってあげて欲しいなと思う。



 そういえば、バッファに新フォームがなかったとか、タイクーンに強化がないとか、ナーゴに関しては絶望的とか、いろいろあるけれども……
 俺としてはバッファ強化は新フォームじゃなくてフィーバーゾンビでもまあよかったかな、と思わなくもない。少なくともラビットドラゴンをフルCGで作られるみたいなマネされるよりはマシ(まぁあれも急遽の展開だったという噂は聞くから仕方ないけど)。

 ツノとマントと上下ゾンビだけで強さは伝わるし、まぁもともと上下揃いはほとんどなかったわけだから、上下揃いが実質の強化フォームというか、完全体みたいな扱いでもいいのかなと。
 そもそもおそらくブーストバックルを使えば他作品の最終フォームくらいのスペックがある、という公式設定からして、おそらく「全員に強化フォームを配れない」という現実からの逆算で降りてきた設定値じゃないかなと思う。
 制作企画段階で最終フォームを各員、もしくはギーツにバッファ、タイクーン程度に配る予定ならブーストバックルのカタログスペックをそこまで上げないだろうと思う。最終フォームは当然ブーストバックルのスペック値を越えないといけないわけだから。
 だから強化できないにせよ、タイクーンに関してはケケラがブーストバックルの事実上の横流しとかしていたわけで、もうおおっぴらにケケラがブーストバックル渡すとか、勝手に強化したケケラ版のブーストバックル2(なんかマントつく)とかでけーわもプチリデコ強化もらうとかでよかったんじゃないかな、とは思う。もしもなにかしら強化するなら。
 その程度の強化はあってもよかったかなーとは思ったりもするけれども。
 あとは姉ちゃんが死んでそのIDコアが強化パーツになったりしたら頭ベロバの俺たちがキャッキャしたような気もする。死んだやつのIDコアを土にぶっさすとジャマトになったり武器になったりするとかで強化武器ゲット、とかもオモチャとして展開できた気もするが、まあ冷静に考えて姉貴の遺品から精製された剣とかがドンキに売ってて子供がキャッキャして買ってたら怖い。それけーわの姉ちゃんやで。


 やっぱり脚本家の腕がいいことを知ってると期待値も上がってアンチみたいなことを言ってしまう。
「嫌なら自分でやれ」という金言に従って、やっぱりどうしても気に食わないなら自分でやるしかないんだけれども。

 脚本家を責める気はまったくない。俺が憎むのは、いい脚本家がのびのびと作れなかったかもしれない事情・現実・この世界。
 庵野がシン仮面ライダーの撮影がやりにくくてこの日本は撮影に対して優しくなさすぎるってボヤいていたけれども、いつか創作者がすべてを思い通りにできて、逆らうやつは皆殺しにできて、のびのびと作品だけを作っていればいい世界になればいいのにな。
 そうすれば、もっと楽しい作品がたくさん増える。多少の犠牲を贄にして。
 それがパヤオの言うところの「ピラミッドのある世界」だと、俺は思う。





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